蒸し暑い室内は算盤を弾く音しか聞こえない。

地獄の会計委員会は、例に漏れず今日もまた地獄だった。







すぱん。






「はいみんな休憩ー!冷えたての瓜持ってき
うわああああああああああさぁぁん!!」―――団蔵君なんで泣いてるの」



若干頭の悪い日本語を引っ提げて、威勢よく事務員が入室した。

と同時に団蔵が彼女に抱き着く。
その瞳からは、ぼろぼろと涙が滴っていた。







「そんなに瓜が食べたかった?大丈夫だよ沢山あるから」

「違いますよさん…」




呆れ顔で三木ヱ門が云う。
片手で瓜を支え、片手で団蔵の頭を撫でていたは、 え、違うの と云った。






「ほら、さん一年は組の連中と凄く仲良いじゃないですか」

「それ見てた潮江先輩が、『お前らみたいな落ちこぼれととじゃ釣り合わん!!』て怒鳴り散らして」

「嫉妬ってやつです」


「だ、誰が嫉妬なぞするかバカタレ!俺はッ、そのッ、忍者たる者だなッ、」









三木ヱ門、左門、佐吉が苦笑し乍らに事情を説明した。

それを聞いていた文次郎が、赤い顔でなにやら小難しい御託を(やたらと噛みながら)並べて反論している。

団蔵はその間も小さくしゃくり上げる。



三木ヱ門たちはいつの間にか文次郎の悪口を叫んでいた。
(日頃の鬱憤を晴らしているのだろう)










壮絶である。










この喧騒の中、上がっていく室内温度とは逆に冷めていくには、未だ誰も気付かない。

あまつさえその笑みが引き攣ってきていることにも。














「…神崎、これ持ってて」
「え?さ、」


持ってて
「は、はいッ!(瓜、重ッ!!)」



「取り敢えず、なんで団蔵君が泣いてるのかは判った。―――おもいっきり潮江君が悪いね」
「な、なんでだよッ!!俺は、お前の為にだなッ」



「黙ってなさいもんじろう」



「なッ(なんでいきなり名前で呼ぶんだ…)」










「―――でもね、私、解決策を思い付いたの。ほら団蔵君、顔上げて」

「ふぁ、はい」

「よしよし偉いぞ。後で鼻水拭こうな。…それじゃ、潮江君」


























「ごめんなさいは?」















泣きっ面の団蔵と共に俺を見据えた彼女の顔は、これ以上ないほど満面の笑みだった。









君の笑顔に絶望した
(全くもって勝てる気がしねえ)




(ほら、ごめんなさいは?)
(…ご、めん、な、さい)


(うん、素直で宜しい!だからもんじろうって好き)


(はっ!!?)








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もんじのヒロインはお母さんな子が良いと思うんだ。
2007.12.16