「ベッドが無いんだよ」
「え?」
「私の家にはね、ベッドが無いんだ」
24時
「どうしてですか?」
無垢な瞳では尋ねる。
彼女は私の正体を知っているから話すことに抵抗はない。
早く教えてくれと云わんばかりに詰め寄るに苦笑し乍ら、くしゃりと頭を撫でてやる。
「うふふ」
嬉しいのか、擽ったそうに身を攀りは笑った。
「―――私はね、くんも知っている通り、融機強化兵士だ」
「はい」
「元々は殺戮の為にのみ造られたんだ。そこに、自我なんてなかった」
「…はい」
「だからプロテクトが外れた今でも、睡眠なんて作業は私には少ししか必要ない。
兵士として邪魔な作業は、あの教授が全て排除してしまったんだよ」
「…」
「驚愕したさ。でも、おかげで不安や虚無感に駆られることは殆どなかった」
は俯いた。
私は自嘲気味に嗤う。
「―――それでもやはり、憎悪とは消えないものだね」
ああ、私は幼い子供相手に何をここまで云っているのだろう。こんなことを彼女に話したところで何が変わる訳でもないというのに。
は不快な思いをしただろうか。
己の哀れな境遇に同情してほしい私を蔑んでいるだろうか。
寧ろ、こんな私を見て落胆したかもしれない。
「…セクターさん」
が重々しく口を開いた。
「だったら、此処を使ってください」
「―――膝、かい?」
彼女は自身の膝をぺしぺしと叩いた。
「私の膝だと、気休め程度ですけど」
そう云ってにこりと笑う彼女を見て、とくんと何処かが脈打った。
(ああ、この感情だけは蘇らせまいと思っていたのに)
「ありがとう。くんは優しい」
自然と、笑みが零れた。
「そうと決まれば早速」
云うが早いか、は私の顔を両手で捕まえて引き寄せた。
どさりと柔らかな膝に倒れ込む。
「シンゲンさんから教えてもらったシルターンの子守唄を歌ってあげますね」
そう云って、小さな手で私の頭を撫でる。
成る程、少し擽ったい。
そしてが意気揚々と唄い始めた子守唄の、鬼妖界独特のリズムを聞き乍ら、私はゆっくりと目を閉じた。
(そうか、睡眠とは
斯くも甘美で魅力的なものなのだ)
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眠れない夜に書きました。
サモンナイトではセクター先生とクラウレが好きです。