ああ、こんなにもさけんでいるのに。
(気付いて気付いて僕は今此処に居る)
鳴らせ、サイレン!
昼下がりの薔薇十字探偵社は閑古鳥が鳴いていた。
「ちゃんの腕って細くてきれいだよね」
つ、とさりげなく触れて、云う。
(細やかな肌と静かに笑う君は僕を傷付けるには充分で)
「ふふ、榎さんは「細すぎるからもっと食べなさい」なんて云うんです。厭味でしょうけど」
―――刹那、指が強張った。
どうしていつも彼女との会話にはあの人の名が出てくるのだ。
いつもいつも、はあの人の事ばかり話していた。
僕は、君を知りたいのに。
(まさか、いや、きっと。彼女は)
「―――僕は好きですよ」
「え?」
「好きです」
「あら、ありがとうございます。益田さんにそう云って貰えるとなんだか嬉しいですね」
くすくすと、君は笑う。
ああ、そうじゃないそうじゃないんだ。
僕は、そんな軽い気持ちじゃないのに。
(気付いて気付いて僕は今こんなにも主張している)
いたたまれなくなって、無意味に抱き締めた。
「うあ、益田さん、苦しいですよ」
きゃっきゃと笑う君は、それでも僕を引き離そうとはしない。
ずきり、と。
何処かが軋んだ音がした。
「うん。分かってる」
その優しさに甘んじている日常でも構いやしない。
君に触れる事が僕の存在証明だから。
(じわじわと焦燥感が押し寄せるけれど、それでも僕はを離さなかった)
益田はけけけ、と自嘲気味に笑い、もう一度、好きだよ、と云った。
閑古鳥は鳴き止まない。
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感覚を取り戻すためリハビリ中。
益田=最強片思い。わたし、片思い大好きです。
うちのヒロインは、若手に想われおっさんを想う、そんな感じ。
2007.2.19