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こんなにも空は澄んでいるのに





僕の世界は、泣いていた。












タイトロープ

























「ね、」




こんな時、どう声をかければ良いのか解らない己がもどかしい。


























目の前で少女が哭いている。








腕の中には、一匹の猫。



二度と動くことのない薄汚れた躯を抱きしめて少女はただただ、哭く。

























「わたし、が」



震える唇がゆるゆると開いて。




























「殺したの」





「―――はなこちゃん」


























いつからかこの釣り堀に現れるようになった猫に、はなこはよく餌をやっていた。


名は無いらしい。








「野良なんだから、名前で縛るのは可哀相です」



―――そう云っていたか。

















それでも、


天命は尽きるものだ。





























「なに、も、してあげ、られな、かった」





ほろほろと涙を流すはなこに、不覚にも目を奪われた。




































ああ、自分こそ何もしてあげられないではないか。




































どうすればいい。





どうすればはなこは。
















僕の世界は泣きやむのだろう。
















































―――手。












そうだ。手だ。手を。





手を伸ばさなければ。





















世界が崩れてしまう前に。







































不意に、



切なくなった。































































「大丈夫」







いたたまれなくなって、ぎゅうと抱きしめる。


か細いはなこは少し震えて、小さくしゃくり上げた。




















「悪くないから」


「ッ、あ」
















両の腕に力を込める。


吐息がかかった。






















「大丈夫。だから、ね」























ああ、やっと


泣き止んでくれただろうか。
































(腕から伝わる温かさに、何故だか己も安堵していることに気付いた)









































「伊佐間、さん」


「うん」










「ありがとうございます」



















先程とはうって変わり、確たる口調ではなこは云った。




そして涙の痕が色濃く残る頬を引き攣らせ、にこりと笑った。








「もう、大丈夫」

























ああ、




はなこの笑顔に救われる。


































「うん」

















くしゃりと髪を撫でてあげると、はなこは擽ったそうにもう一度笑った。






































(僕の世界はいつだって、悲しいほどに綺麗なんだ)































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すごく感覚的なお話ですいません。


伊佐間夢を書くと何故だかヒロインまでピュアになってしまいます。



2007.4.30