「―――で、さんは僕のふとももに足を乗せて、」
「ん、よいしょ。こう、かな」
「あ、腕は僕の首に回して」
「はいはい。―――ああ、これ楽チン」
「でしょう?『座り茶臼』って云うんだよ」
「ふうん。変な名前」
おいおいおい真ッ昼間の保健室で何してんだ善法寺伊作。
幾ら暇だからって仕事終わりの事務員さんひっ捕まえて、よりにもよって四十八手講座かよ。
風邪で寝込んでるこっちの身にもなれっての。
(くっそう大股開いて正面から抱き合うな!卑猥なんだよ!)
「それでこれが、」
「うおっ、と」
「あ、大丈夫?急に倒れてごめんね」
「いいよいいよ。大丈夫」
「そう?あ、もうちょっと背筋伸ばして―――これが『時雨茶臼』ね」
「へええ。…なんだかさっきからなんとか茶臼ばっかりだね」
「うん。僕これ結構好きなんだ」
「―――これってさ、毎日やればちょっとくらい体柔らかくなるかな」
「そりゃあ勿論。なんなら僕が毎晩教えてあげるよ」
「晩?夜にやると効果倍増なの?」
「別に昼間でも良いけどね。ふふ、さんは大胆だなあ」
「大胆って何が?」
…さん、何も知らずに教わってたのか。
(多分柔軟体操かなんかだと思ってるな)
全く、少しは訝しんでくれ。あんな際どい柔軟体操この世に存在しねえよ。
ああ畜生、苛々する。熱上がってきたんじゃねえかこれ。
「じゃ今度は、…よい、しょ」
「え、やっ、ちょッ、ま!まって、」
「―――『理知らず』」
「…いいいたたたたた痛い痛い痛い!!なにこれ拷問!?足つる!つるからッ!」
「そんなに痛い?僕、これが一番好きなんだけど」
「うっそお!伊作くん加虐趣味なんじゃないの!?」
「だあああああもう煩せえ!!善法寺伊作!お前さっきからさんに何教えてんだよ!」
「煩いのは君だよ食満。ここ何処だと思ってんの。保健室だよ、ほ・け・ん・し・つ」
「その保健室で、ひ、卑猥なことしてんじゃねえ!!」
「え、なんで卑猥なの食満くん。柔軟体操じゃないの?」
「そんな訳あるか!あんたもいい加減気付け!それでなくともちったあ訝しめ!!」
「もー、そんな激昂しちゃって。熱上がるよ食満あー」
「誰のせいだと思ってんだ!!!」
俺の安眠よ、何処へ消えた。
(更に悪化した頭痛は、きっと風邪のせいなんかじゃない)
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以上、善法寺伊作の四十八手講座でした。
食満君は公序良俗に反することは大嫌いです。俗に云うむっつり。
文中に出てきた手が気になる方は背後に注意し乍らググってみましょう。
(『理知らず』は本当に痛そうです)
2007.7.20