「ねえ、私と心中しませんか」
「…ええと、雷蔵くん?」
「違います鉢屋です」
その時、世界は無彩色だった。
昨晩しんしんと降り積もった雪は大半が下級生の雪合戦に消費され、学園中に植えられた木々は一様に枯れ落ちている。
この全くのモノトーンに、彼女の朱い頬は似つかわしくないと思った。
「また間違えましたね、」
「だって難しいもの」
ふふ、と八の字眉で笑う。
この事務員が私と雷蔵を見分けたことは、ただの一度もなかった。
(事務員だから仕方がないと云われてしまえばそれまでなのだが)
「それで、なんだっけ」
「ああ、そうです。私と心中しましょう」
「―――心中、ねぇ」
「今の時期なら入水はどうですか。抱き合い乍ら海に沈むんです。それとも、あれですか。が望むなら腹上死でも構いませんよ」
理想のプランを語り乍らを視る。
際立つ頬。
朱い朱い。
(やっぱり世界は無彩色であるべきだと思う)
どんぐりの様な目がふにゃりと歪んだ。笑っている。
そうか、きっと彼女は、
「そうだね。日取りが決まったら教えてよ」
ずきり。
軋む音。
眩暈がした。
(きっと私は嫌な顔をしている)
彼女は知っているのだ。私なんかが心中などできはしないと。
できる度胸すらない、卑怯で、矮小で、臆病な人間なのだと。
(ああ、貴女はなんて残酷で、なんて優しくて、なんて、)
「(―――なんて愛しい人なんだろう)」
ざり。
雪を踏む。
彼女との距離が縮まる。
ざり、ざり、
その勢いのまま抱きすくめると、は少しだけ驚いていた。
ぎゅう、と触れた所から体温が伝わる。私はこんなにも冷え切っていたのだろうか。
(なんだか泣きたくなった)
「、好きです、好き、、ああもうホント、好きで、す、」
(伝わるかな伝わるかな私はこんなにも貴女を、)
「――そう。ありがとう」
抱きしめる腕に力を込める。
遠慮がちに抱き返す小さな腕が心地良い。
間近に見える白いうなじに口付けたら、きっとモノトーンは壊れてしまうと思った。
前略、竜胆の君へ
(いっそこのまま抱いてしまえたらいいのに―――アリウムの私より)
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うちの中二病鉢屋は自殺志願者ですが死ぬのが1番怖いです。
はなことば!
竜胆→あなたの悲しみに寄り添う/アリウム→無限の悲しみ
2007.12.16