は、私の傍で眠りこけてしまった。
「寝ちゃった」
「寝ちゃいましたね、ちゃん」
「榎さんが起きるまで寝かせておいてやろう」
「―――うぅ」
手。手を。
「どうしたのかね関口くん。顔が赤いぞ」
「な、なんでもないよ」
「ちゃんの寝顔に感激したんでしょう。ちゃん可愛いから」
「―――う」
「図星?」
違う。そうではない。
手を。手が。
私は猛烈に焦っている。
は今、私の傍で規則正しく寝息を立てている。
確かに可愛らしいと思うが、私が焦っているのは別の理由なのだ。
彼女の細くしなやかな手には
堅く私の手が握られているのだ。
こと色恋に対して全くと云って良い程免疫がない私にとって、これは由々しき事態だった。
もはや思考は停止しかけている。
「関くん。手」
「えっ」
「手?―――ああッ!関口先生なにちゃんと手なんか繋いでるんですか!」
「―――関口くん。君はいつからそんな軽薄な男になってしまったのかね」
「ち、ちが」
「違わないよ。全く、虫も殺せないような顔して女性の手を握るなんて。僕は君を軽蔑するよ」
「僕もです関口先生ッ!」
「な」
不条理だ。あんまりだ。
君達は想い人が私に好意を持っているかもしれないと思って八つ当たりしているだけじゃないか。
更に混乱する私の肩を伊佐間が叩いた。
「い、いさま屋―――」
「関くん」
朴訥な釣り堀屋は、珍しくにこりと笑って云った。
「最低」
その後私は、が起きるまで虚しく罵倒され続けた。
春の日差しはその間も、私と彼女のつなぎめを優しく包み込んでいた。
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分岐夢関口の場合。
脱・悲恋…の筈。伊佐間出張りすぎ?
2006.10.23