「わっ、ちゃん」
が頭を預けたのは調子のよい探偵助手の背中だった。
「ちゃん?寝ちゃった?」
から反応はない。
ただ規則正しい呼吸が聞こえるだけである。
益田はここぞとばかりに間近にあるの顔を凝視した。
「ま、益田くんッ。は、破廉恥だぞ。どきたまえよ」
「どこが破廉恥なんですか関口先生ぇ。まるで仲睦まじい恋人みたいじゃアないですか」
「益田くん。それはくんに対して失礼だよ」
「うん。ちゃんにも権利が」
「そう。くんにも相手を選ぶ権利がある」
「けけけ。負け惜しみにしか聞こえませんよ、中禅寺さんに伊佐間さん」
益田の笑みに自然さが消えた。
普段は書生風のひ弱な青年を気取っているが、内心何を考えているのか判ったものではない。
故に中禅寺と伊佐間はこの青年を警戒しているのだった。
益田はにやりと笑い乍ら背中に掛かる愛しい重みに満悦している。
三人―――関口は情けない顔でああとかううとか云っている―――の間に表し辛い空気が蔓延した。
その時、
「ああよく寝たぞ!寝過ぎて瞼が引っ付くところだった!
そんなことになったらの顔が見れなくなってしまうじゃないかッ。
あ、カマオロカ!僕のに何してるんだ!今すぐ離れなさい!」
下僕がに触るんじゃないッ!と叫んで、榎木津が益田を思い切り引っ張った。
ぎゃあという声と共に、憐れな探偵助手は縁側に倒れ込んだ。
榎木津礼二郎の起床である。
榎木津の腕の中には、未だ眠りこけているがいる。
「カマオロカ。お前、クビ」
「そんなあぁ」
春の日差しは、たださんさんと憐れな青年を照らしていた。
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分岐夢益田の場合。
これ益田夢か…?笑 報われない彼が好き。
2006.10.23